私が骨董市で買いたいと思っているものに、占領期の雑誌があります。戦争中のことは、戦後の視点ではあっても、本が洪水のように出ていますが、それに比べると占領期の情報は流通量が少ない気がします。
「少年」の方は昭和22年、「こども科学教室」は昭和23年のものです。てかてか光って見えにくくて申しわけないのですが、これはもちろん当時の紙質ではなく、私がビニールを被せて補強したためです。紙が弱くて劣化しているので、こうでもしないと安心して読めませんでした。中のページもザラザラの手触りで、活字は驚くほど小さくてぎっしり詰まっています。この紙をケチったような印刷と紙質の悪さは戦争末期から昭和24年前後までの雑誌独特のものです。どちらの雑誌にも題に英訳、或いはローマ字が添えられています。これも占領期の雑誌の特徴らしいです。「こども科学教室」では、蟻の生活や雲の観察、畑の雑草の話など、身近な世界のことが丁寧に書かれています。けっこう読んで楽しいです。今の子供だったら、(私の時代でも)めんどくさがりそうな、手間のかかる標本箱の作り方などが載っているのも、何も無いために、欲しいものは作るしかないという感覚が子供にあったからかもしれません。深海に対する夢も楽しいです。
「少年」の方も、木版画の作り方や、冒険小説が楽しいです。八住利雄の「ふしぎな冒険」では、体が虫のように小さくなった少年少女が小鳥の卵の目玉焼きを腹いっぱい食べますけど、これ美味しそうでした。雰囲気はまるで違いますが、絵本の「ぐりとぐら」を思い出しました。南極探検の話もあります。おもしろかったのは「世界少年めぐり」で、「明るく、すなおで、ものわかりのいいのが、フランスの少年の特ちょうでありましょう。しかし、また、いたずらずきでもあります・・・(中略)家庭における子供のしつけは貧富のさなく、ひじょうにげんかくで、そして信仰深く・・・」とまあ、この調子です。シリーズで各国の少年というものを読んでみたいと思いました。
二つの雑誌の裏表紙です。同じような広告が並んでいます。絵の具や鉛筆の宣伝が多いです。これが昭和28年くらいになると、チョコレートなどお菓子の宣伝が目立つようになりますが、この頃はそれどころではなかったのでしょうね。
九州の昭ちゃんさんのヒントから面白い発見がありました。表紙は1930年の潜水球バチスフェアの絵では?と教えていただき、さっそく雑誌を繰ってみました。深海と潜水艇の記事があり、バチスフェアのことも載っていました。そしてその最後のページの隅に、表紙絵の説明も載っていたのです。「遠くで行われている野球やお芝いを、いながらにして見ることのできるすばらしいテレビジョンが、こゝでは海中のようすを自分で光りを発射してうつし出しているところ。」(※送り仮名など原文のまま)なんと、当時の潜水艇のイメージで描いた、未来のテレビ放送想像図だったのです!潜水球風のものは、たぶんテレビカメラなんでしょう。すごい、すごい!ちょっと検索してみました。海外では戦前から既にテレビ放送は始まっているようですが、日本では昭和28年に最初の白黒テレビ受像機が売り出されたようです。当時の憧れテレビジョンと、海底への夢が結びついた素敵な表紙絵でした。九州の昭ちゃんさんに感謝!